Xboxが目指すもの
Xboxの次世代機の発売が決まった。Xbox Series XとXbox Series S そう兄弟機だ。
この二機種には多くの違いがあるが、何故次世代機を二つ作る必要があったのか。それは3年前からサービスを続けてきたXbox Game Passの会員数を増やすためだ。そして多くのゲームに“機会”を与えるためだ。このごく単純な戦略について今回は語りたいと思う。
ふたつのXbox
Xboxの次世代機が2機種になる――そういった“噂”は2年前から既に行われていた。ひとつは家庭用ゲーム機史上最大の性能を持つフラグシップモデル、もう一つは性能を抑えた廉価モデル。といっても家庭用ゲーム機では性能が異なるモデルを発売することは珍しいことではない。ゲームボーイの時代からライトやポケットやカラーといった機能を追加したモデルが発売されており、近年でもNew 3DSやPS4 Proといったモデルが出ていた。これらは発売から数年が過ぎ、販売数が一旦落ち着いた時期に投入され新規顧客の獲得や既存客の買い替え需要を促していた。
そしてそれはXboxにおいても例外ではなかった。今世代機Xbox OneではXbox One SとXbox One Xが発売された。“S”は初代Oneの薄型化モデルでHDRやメディア4K出力の対応も果たした普及機。“X”は当時のゲーム機史上最大となる6TFLOPSものGPU演算性能を誇る最上位モデル。特にPS4 ProやXbox One Xは普及モデルであるPS4やXbox One Sからスペックが飛躍的に向上しており、PCにおける技術革新に少しでも追いつくべくして作られたモデルなのだろう。多くのゲームが家庭用にもPCにも作られる時代。柔軟にそして仕方なく対応しなくてはいけない各社の動きが見られた。
このようにハードの発売から数年後にコストダウンや効率化等から薄型化し、さらに上位の機種が出ることはあった。しかし、今回のXboxの戦略は一味違うようだ。
Xbox Series X|Sはスペックの異なる次世代機だ。これはOne S、One Xから続く系譜だというのは自ずから名前で判別できるだろう。普及機と高性能機が同日に発売するのは前代未聞だ。しかし、これこそがXboxの示す次世代であり、その先にある“もの”に繋がる戦略である。
Xboxエコシステムの根幹に存在するXbox Game Pass
その“もの”とはXbox Game Passだ。2017年に始まったこのサービスは所謂ゲーム版Netflix、 ゲームのサブスクリプションサービスである。このサービスではXbox傘下のファーストパーティースタジオ「Xbox Game Studios」タイトルと国内外のサードパーティータイトルやインディーゲームまで多岐にわたるタイトルが遊び放題になる。「Xbox Game Studios」タイトルは発売日に対応するのはもちろん、特に今年に入ってからはインディーゲームのDay One入り、つまり発売日から即Game Pass対応が増えてきており、過去のタイトルだけでなく最新のゲームまで遊べることがこのサービスの魅力である。何よりも850円/月とお手頃価格なのがはじめやすい。ひとつのタイトルを遊びたいだけでも、ひと月加入してクリアまで遊んでしまえば元を取れてしまう。
また、PCとConsoleを合わせさらにXboxのオンラインサービスも追加したXbox Game Pass Ultimateは1100円/月で提供されているので、XboxとPC両方でゲームを遊ぶ人にはとてもおすすめできるものになっている。これはXboxとPCで対応タイトルが違うために提供できるプランともいえるだろう。
このGame Passの登場でXboxユーザーの、それもファーストパーティータイトルを好む人は価値観が変わった。「Xbox Game Studios」のソフトは発売日から全部体験できるし、そのおまけに100タイトル以上の様々なタイトルからゲームを選んで遊ぶことができる。Xboxが行うゲームの発表会は、購入するゲームを吟味する場ではなくなり、お気に入りになるかもしれないゲームを探す場になった。時間は有限なのでその点については各々が頑張る必要はあるが。
つい先日、この「Xbox Game Studios」に「Bethesda」が入ることが明らかになった。親会社であるZeniMax Mediaをマイクロソフトが買収したのである。ZeniMax MediaはBethesda Softworksやid Software等8つのゲームスタジオを抱える大企業である。Xboxファーストパーティータイトルとなることで、Xbox Game Passには発売日入りをし、PCやXboxで遊ぶことができるようになる。“ソフトがなければハードはただの箱だ”まさにその通りである。
様々な憶測があるが、他の家庭用ゲーム機に出すのは“case by case basis”とのこと。
ファーストパーティーなので通常ならSwitchやPS5等の他プラットフォームで発売することはない。とはいえ、マインクラフトやCuphead、Oriシリーズは他プラットフォームでも発売されているので発売されることもあるかもしれない。一方で前作がマルチプラットフォームで発売されたHellblade2はPC/Xboxのみの発売となることが決まっている。つまり、マイクロソフト次第ということだ。
兎に角、Xboxユーザーが何かあるたびにゲームパスだのゲーパスだの言うのには取り敢えず入っておけば損はしないし、寧ろ時間が足りなくなるということを十分理解していているからだ。そして、これはXboxを販売するマイクロソフトもまた思っているだろう。次世代Xboxを2機種出し、少しでも多くの人に触れてもらえるようにしているのもゲームパスのためである。
間口は広く、誰にでも
Series Xは4k@60fps up to 120fpsを目的に開発されたハードで、Series Sは1440p@60fps up to 120fpsを目的に開発されている。つまり4k環境を確立しているユーザーにはX、そうじゃないユーザーにはSをということだ。誰もが4k環境を構築しているわけではない。それに価格も高くなり、敷居は自ずと高くなる。Sはそんな敷居を下げるために開発され、同時期にリリースすることになったのではないだろうか。何よりも小さくてとてもかわいらしい。
下げた敷居はやがてXbox Game Passを導入するきっかけにも活きてくる。55000円は出せないが、33000円なら出せる、置き場を確保できない、はじめてのXboxをお試しで購入したい、PS5やSwitchとの二台持ちに、4Kはまだ……などなど、あらゆる条件があるはずだ。それに対応するために、“ユーザーに寄り添った”回答こそがSeries X|Sの二機種展開だと私は思う。
それでももしXboxを買うことができない人にも選択肢がある。PCとAndroidスマートフォンである。23社にも及ぶXbox Game Studiosのタイトルは全てXboxとPCでリリースされるし、かつてProject xCloudと呼ばれていたCloud gamingというクラウドサービスを使ってAndroidスマートフォンをインターネットに接続し、ゲームを楽しむこともできる(日本では2021年上半期にサービス開始予定)。より多くの人にゲームパスに加入してもらいたいマイクロソフトの魂胆がわかるだろう。そう、ハードを売る事が第一目標ではない。Xbox Game Pass会員を増やすことこそがマイクロソフトの目標で野望なのだ。
『Xbox』はかつて家庭用ゲーム機の名前でしかなかった。しかし今ではPCやXbox SeriesやAndroidスマートフォン等で楽しむことができるサービス、という意味を内包しつつある。この機会に『Xbox』を検討してみては如何だろうか。思わぬお気に入りを掘り出せるかもしれない。