常盤の雲、群青の空

いろいろかきます

AI:ソムニウムファイル感想(微ネタバレ)

※この記事にはネタバレが含まれます。クリアしていない方の閲覧はご遠慮ください※ 

 

 

 

AI:ソムニウムファイルはアドベンチャーゲームの魅力を存分に詰め込んだ作品だ。アドベンチャーゲームの魅力といえばなんだろうか。ストーリーは勿論、謎を解き明かす過程やプレイ時間を経過するほど深くなっていくキャラクター造形や音楽とビジュアルと文章で紡がれる小説とも映像作品とも違う物語作品。それがアドベンチャーゲームにおける魅力の一部分だ。

 

私はアドベンチャーゲームを数多くプレイしてきたとは言えるほどではない。ギャルゲーや美少女ゲームと呼ばれるもののほうが多いくらいだ。その為、ゲーム性のあるアドベンチャーゲームをプレイしたことは少ない。一方でその経験からストーリーやキャラクターはとても大事だと認識していて、ADVという形式上それは寧ろ必然だといえる。

 

今回私はSwitch版を選択した。理由は就寝前の時間にあおむけになってプレイができるからだ。スマホやウェブカメラを取り付けるクリップ型のスタンドにSwitch本体を取り付け、Joy-Conで操作する。これを知ってしまうと他の操作体系にはなかなか戻れない。特に激しいアクションのない今作にはそれが合うと思った。

私の予測通り、このプレイスタイルとAIは私の就寝時間を削り、毎日2時間ほどのプレイでも2、3週間の時間をこのゲームに費やしてしまった。それでいて飽きがなかったのは、見事なゲーム構成にあるだろう。

 

私は左左、左真ん中、左右とすすみ、右左、右右でエンドとなった。どのルートを進めても必ず謎が残され、はじめ立てていた予想を嘲笑うかのように新たな情報、謎が増えるたびにその予想を変更することになった。謎が謎に絡めとられてしまうのだ。そういった点で伏線の貼り方、情報開示の時期、謎の解明のテンポは非常に良く、最後まで飽きさせない工夫を感じた。

 

アドベンチャーゲームにおいてキャラクターは要である。それはアドベンチャーゲームは基本、何をするにも大抵誰かと会話が発生しそれによって物語が進んでいくからである。また、分岐によってシナリオが変化し、選択したルートによってキャラクターの新たな一面を知ることができるのも面白い。

 

今作はビジュアルを見るだけでわかる通り、非常に個性的なキャラクターでいっぱいだ。というより個性がとびぬけたキャラクターしかいない。アドベンチャーゲームは現実とは違う。突飛かもしれないキャラクターたちだが、寧ろそれがキャラクターを何層もの個性で構成し、少し会話しただけでは把握できないキャラとしての魅力となる。はじめは苦手だったキャラクターと幾度も出会い、会話をするとどうだろうか。お気に入りのキャラクターが増えていく。これは現実ではない。現実の人間ではない。されど虚構の物語を実感じみたものにするには最高の舞台装置なのだ。僕たちが夢物語に心を動かされるのは其処に彼らが存在しているからだ。

 

しかしこの作品は明るいキャラクターたちで構成される一方で、物語のはじまりはとても陰鬱なものだ。刑事という主人公の立場からすれば仕方のないことだが、左目をくり抜かれた死体が発見されそれを捜査することから物語ははじまる。主人公の伊達鍵もまた、左目を失っている。ネットアイドルA-setの母親の瞳も右腕の自由を失い、みずきも母親を、応太は父親を……

 

ふと、喪失からの再生、それがこの物語の描きたかったテーマなのではないかと私は感じた。登場人物は皆何かを失っている。この物語は皆が失うことからはじまっている。誰も満たされているものはいない。忘れているもの、心に秘めているもの、納得したもの、それぞれの折り合い方は多様だが未だ癒えていないものもいる。そしてそれは簡単に元に戻すこともまた、できないのだ。永遠に消えない傷。それを彼らは負っている。

 

そんな喪失を再生へと導いたのはなんだったのか。結局のところ私はそれが「愛」なのだと感じた。このゲームの名前も「AI」だ。そこに複数の意味が込められていることは承知しているが、私は「愛」を強く感じた。

一番わかりやすいのは家族愛だろう。

 

家族っていうのは・・・

『当たり前』のことが『当たり前』にできる関係性のことなんじゃないかって・・・

 たとえば『ただいま』って言ったら『おかえり』って返ってくる、みたいな・・・

 

とみずきは定義していた。血は繋がっていなくてもみずきと伊達の関係は家族そのものだ。瞳とイリスと……は家族だし、伊達とアイボゥの関係もそういうことだったのだ。家族以外にも猛馬のあせとんちゃんへの愛、ボスの伊達への愛などなどキリがない。この物語は愛に溢れている。

 

そうこれは決して消えない喪失の傷を愛のチカラで再生へと導く、愛の物語だった。ただそれだけだ。それだけだからこそ、私はこれほどまでにこの作品に思いをはせ、エンディングを見終え1週間が経つ今でも心を掴んで離さない。愛。なんと普遍的なテーマなのだろうか。殺人事件を描くCERO:Z相当のこの作品から得られた感情は私の心に沈殿して永遠に残っていくだろう。私はこの作品が、みんなが、大好きだ。

 

虹ノ矢ハ折レナイ!

 

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